2017年7月14日金曜日

クリスト/Christo 〜風景を覆い隠すアーチスト

【地球を梱包するクリスト】







クリスト(Christo/1935年〜)はブルガリア生まれのアメリカ在住のアーチストで建物や海岸、橋、道、島などのさまざまなモノを布で包み込むことで知られますが、初期に比べて作品規模も大きくなりフランス人の妻、ジャンヌ=クロード(1935年〜2009年)と「クリスト&ジャンヌ=クロード」の名前で二人三脚で活動してきました。




1976年「ランニング フェンス」(カルフォルニア)
出典:https://www.kcet.org/


出典:http://anotherimg.dazedgroup.netdna-cdn.com







彼の作品は「包む」「梱包」等の言葉で言い表される(彼自身はそう言った言葉で括られれのは好まないようです)ことが多いのですが、正確には「覆い隠す」と言う表現の方が的確な気がします。勿論、その範疇に収まらない作品もあるのですが、初期のショーウィンドウに白い布を張って中を見えなくした作品は彼のそうしたコンセプトを象徴しているようにも思えます。





古くは裸の女性を透明なビニールで梱包する作品を制作していますが、クリストにとって対象は違っても、「包む」と言う行為はどれも衣服のようなものなのではないでしょうか。




彼の作品は非常に大規模ですが、驚くべくことにスポンサーや寄付などは一切受け付けず、すべてドローイング等を販売した数十億にのぼる自己資金やボランティアだけで制作しています。

それはスポンサーに左右されない作品の純粋性を保つことにも繋がっています。また彼のプロジェクト自体が旧ドイツ国会議事堂の梱包プロジェクトのように政治的な意味合いを持ってくるものも多く、最近ではトランプ政権に反対して25年越しで進めていた米コロラド州のアーカンソー川の川面の上を約9.5キロにわたって銀色の布で覆うプロジェクト「オーバー・ザ・リバー」を直前に中止しています。(トランプ氏が政権を担うこの国に利益をもたらすようなプロジェクトは行いたくないと言う趣旨のことを言っています。)





作品制作の許可を得る為に数多くの説明会や話し合いを国や役所、地域住民などに対して行うプロセスこそがプロジェクトの最も重要な部分てもあります。

プロジェクト自体にかける時間も数年から十数年かけたものがほとんどで、長いものでは25年以上かけて実現したプランもあります。またその実現までの期間とは対照的に作品の展示期間は数時間から2週間程度と短いものがほとんどです。

以前、日本でも1969年に上野公園を包み込むプロジェクトなどが計画されましたが、行政側の許可がおりず結局実現しませんでした。

しかし 、日本でも1991年に茨城県の水田に1,340本の青色の傘とカルフォルニアの砂漠に1,760本の黄色の傘を同時に設置すると言う「アンブレラ」プロジェクトが実現します。

一本の傘の直径は約8.7メートルという巨大なもので18日間設置されました。






現在計画されてるプロジェクトのうち、残念ながら前述したようにコロラド州の川の水面を覆うプロジェクトは中止されてしまいましたが、1977年から取り組んでいる砂漠に41万個のドラム缶を積み上げて巨大構造物をつくる「マスタバ、アラブ長国連邦のプロジェクト」は現在も交渉などが続けられてるとのことです。 是非、実現できるといいですね。













【クリスト作品】

>>>Christo & Jeanne-Claude



【関連書籍】






2017年7月12日水曜日

フルビオ・ボナビア/Fulvio Bonavia〜食品から作られたファッションアクセサリー

【食品とファッション】



フルビオ・ボナビア(Fulvio Bonavia)はイタリアの食品のイメージからファッションアクセサリーなどのアイテムを作るアーチスト、写真家です。

映画ポスターなどをミラノを拠点に手がけるグラフィックデザイナーとして活動してましたが、食品からバッグやアクセサリーなどを作った写真集「A Matter of Taste」(Hachette Australia、2008)で注目されました。


出典:https://www.yatzer.com/


出典:https://www.yatzer.com/








彼は食品から指輪や靴、ベルト、バッグ、ピアスなどファッションアクセサリーを作った写真だけでなく、服飾素材の布から食品イメージを作りあげると言う逆の過程の作品も制作していています。

また、アディダス、ソニー、ハイネケン、スウォッチ、アルファ・ロメオ、ジャガーなどのクライアントに広告写真も制作しています。


出典:http://www.webvolution.it/



また、食品だけでなく植物からファッションアクセサリーを作り出した作品も発表しています。


出典:http://www.fulviobonavia.com/

出典:http://www.fulviobonavia.com/








【関連書籍】




2017年7月11日火曜日

タラ・ドノヴァン/Tara Donovan〜日常品の集積が作り出すアート

【アンディ・ゴールズワージーと対をなすアーチスト/タラ・ドナヴァン】




出典:https://www.macfound.org/




タラ・ドノヴァン(Tara Donovan/1969年〜)はニューヨークの女性アーチストで身近な日常品を集積したインスタレーション(一般的に一時的に設置されるような展示方法を指します)の作品で知られています。




ストローを重ねて作られた作品
出典:https://www.artslant.com/



見方によると自然界の葉っぱや枝、石などを集積して作品にするスコットランドのアンディ・ゴールズワージーに似ている面がありますが、ゴールズワージーの対象が自然物なのに対して、彼女の場合はいわゆる現代社会の工業製品を使ったものがほとんどです。

ただ、どちらの作家も対象は違っても必要以上の手を加えず、素材の特性をとても良く生かした非常なシンプルな構造の作品になっていることが共通しています。

見慣れた日常品が集積することで全く違った質を持った表層に変えてゆく。

そんなところが彼女の作品の魅力でもあります。


プラッチックのコップで作られた作品(2003年)
出典:http://mymodernmet.com/


出典:http://mymodernmet.com/


虫ピンを集積させて作った立方体(2003年 一辺106.7cm)
出典:https://www.icaboston.org/


鉛筆を並べた作品(2005年)
出典:http://alexkittle.com/


紙を地層のように重ねた作品(2001年)
出典:http://alexkittle.com/wp-content/

ボタンを重ねた作品(2013年)
出典:http://www.artfixdaily.com/










コップとストロー作品の制作風景




【関連書籍】






2017年7月8日土曜日

エル・アナツイ/El Anatsui〜集積したアルミの蓋が作り出す表層

【エル・アナツイとマルタン・マルジェラの類似点】



出典:http://images.huffingtonpost.com


とても大きなのような質感に見えますが、近寄ってみると驚くことにアルミの缶や小さな瓶の蓋を潰して繋げ合せたものであることに驚かされます。



出典:http://www.eatmedaily.com/

出典:http://www.eatmedaily.com/

出典:https://hyperallergic.com/

出典:https://hyperallergic.com/wp-content/


エル・アナツイ(El Anatsui 1944年〜)はガーナ出身のナイジェリア在住の彫刻家で1990年以後、2度目の参加となる2007年のヴェネツィア・ビエンナーレで瓶の蓋を繋いで作られた巨大なタペストリー作品を出品して注目を集めました。

日本でも2010年に国立民俗学博物館で「エル・アナツイのアフリカ〜アートと文化をめぐる旅」と言う展覧会が開催され、翌2011年にも埼玉県立近代美術館で「彫刻家エル・アナツイのアフリカ」展が開催されています。

さて、美術ファッションの間では良くあることですが、アナツイの作品を見るとマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)の同じく瓶の蓋を繋ぎ合せて作った服が思い浮かびます。



マルタン・マルジェラ
出典:http://illustration.skr.jp/




両者に分野の違いはあっても共通する表現があるのは興味深いですね。




映像から見ると、もしかしたらそうなのかなとは思っていましたが、工房で沢山の人が制作してるようでアナツイ自身はプロデュース的な存在のような気がしますね。

マルタン・マルジェラ/Martin Margiela〜白ペンキジーンズ〜

【リメイクされた衣服】



マルジェラと言うと古着のジーンズに水性のペンキを塗りたくった白ペンキのデニムが思い浮かびます。

古着に厚塗りのペンキが塗ってあるので重さもあり、ひび割れてポロポロと破片は剥がれ落ちてきて通気性も良くないのですが、当時はそれが斬新だったものです。

2012年にH&Mからはペンキデニムなどの「メゾン・マルタン・マルジェラ」の復刻版のコラボ商品が発売されましたが、マルジェラ自身がブランドとの関わりがなくなってからは、彼のコンセプトを焼き直しただけのものになってしまったのは仕方ないことにせよ、相変わらずの日本でのマルジェラ人気の高さを感じさせました。



出典:http://www.mensnonno.jp/

「Maison Martin Margiela with H&M」


ベルギー出身のマルジェラは1984年からジャン=ポール・ゴルチエのデザインアシスタントとして働いた後にファッションブランド「メゾン・マルタン・マルジェラ」を1988年に立ち上げます。翌年のパリコレクションでデビューし、彼の代表作でもある足袋のように先端が2つに割れた「タビシューズ」などで注目を集めます。


出典:https://msp.c.yimg.jp/


彼はミステリアスな人物としても知られ、1997年に撮影されたと言う1枚の写真を最後に、人前に姿を現わすこともなくなりました。そんな所もマルジェラのカリスマ性を増す要因となっています。


出典:https://static1.squarespace.com/

分野は違いますが、彼と同様にある時期を境に人前に姿を現さなくなった現代美術家に河原温(1932年〜2014年)と言う人がいますが、マルジェラと同様に作り手の姿を消し去ろうとする行為は何か共通するものを感じさせます。



河原温 作品
出典:https://textarthistory.files.wordpress.com/



マルジェラ本人は2008年のコレクション以降はブランド「マルタン・マルジェラ」との関わりはなくなったとされ、現在はジョン・ガリアーノが新生「メゾンマルジェラ」を率いています。また1997年〜2003年にかけてはエルメスのディレクターとしてデザインを手がけました。

マルジェラの服には「カレンダータグ」と呼ばれる0~23までのコレクションラインを示す数字が明記された白い布が縫い付けられていますが、タグは四ヶ所が糸で留められているだけの簡単に取れるような仕様になっています。


出典:https://cdn-ak.f.st-hatena.com/



これはブランドに対するマルジェラの考え方を示すもので、デザインに対する姿勢も当時のモード路線とは相反するものでした。例えば軍服をリメイクしたものや古いジーンズに白ペンキのペイントを施した服は「ポペリズム」(貧困者風のスタイル)とも呼ばれ、色あせやほつれ、古着などの新しい価値観を提案し、1990年代の流行を生み出しました。

ボトルの王冠やトランプ、割れた皿、レコード、スキー用のグローブを繋ぎ合せただけの服など奇想天外な発想で最新のモードを発表することに対して反発し、過去に作った服を再度発表したり、衣服にカビの菌を植えつけて変化してゆく過程のインスタレーション「カビドレス」を行うなど服飾に対するコンセプチャルな思考は多くの影響を与えました。



出典:http://thefashioncommentator.com/

出典:http://m.coolspotters.com/

出典:http://thefashioncommentator.com/

出典:http://illustration.skr.jp/




カビドレス
出典:http://journal.slowandsteadywinstherace.com/



マルジェラブランドではなく、服そのものに価値観を見出して欲しいと言う思いから敢えて取れやすい「タグ」にしたと言われてますが、結果的にブランド好きの日本人にとっては彼の思惑とは相反する形で「タグ」は衣服以上に彼の服を象徴し、他のブランド商品と同様に価値のあるものとして評価されることになっています。



【関連商品】





マルタンマルジェラ Maison Martin Margiela Ivory Stonewashed Slim Fit Denim Women's Jeans Ivory 輸入品 価格 19,950円 (税込)





マルタンマルジェラ Maison Martin Margiela Navy Slim Fit Distressed Women's Jeans US 6 IT 42 輸入品 価格 28,220円 (税込)






【Shop】


>>>マルジェラ製品取り扱い店〈YOOX〉

2017年7月7日金曜日

アンディ・ゴールズワージー/Andy Goldsworthy〜自然から生まれ、自然に還る

【自然に溶け込む彫刻家/アンディ・ゴールズワージー】



アンディ・ゴールズワージー(Andy Goldsworthy/1956年〜)はスコットランド在住のアーチストで、主に自然を対象にした素材を用いた作品で知られています。

その対象は樹木葉っぱなど多様にわたりますが必要以上に手を加えることのない表現手法は、少し日本的で「生け花」にも似たものを感じます。しかし作為を感じさせながらも自然の中にそのまま溶け込んでるような彼の作品は「生け花」とは大きな違いがあり、作品の構造も驚くほどシンプルに研ぎ澄まされています。

アンディゴールドワージーの作品の多くはその手法から自然の山の中や湖畔、渓流などにそのまま残されてゆくインスタレーションのようなもので写真記録としか残らないものがほとんどで、永久的に残るような作品はあまりありません。そんな生命にも似たその「はかなさ」も彼の作品の魅力なのかも知れません。

彼の作品はそのまま、また自然の中に還ってゆきます。アーチストはその自然の摂理の中でほんの少しだけ手を差し伸べるだけ、、そんなアーチストの姿勢を感じます。

葉をただ色別に並べ替えただけだったり、松の葉を使って葉っぱを縫い合わせたり、川の水を使って、中洲の石に葉っぱを張り付けたり、、

そんな風に彼の作品の材料はすべて、どこからか持ってきた異質なものでなく、すべてその場の自然の中で見つけられたたものが使われます。


出典:http://cdn.rowleygallery.co.uk/

出典:http://static.boredpanda.com/

出典:http://payload135.cargocollective.com/

出典:http://payload135.cargocollective.com/

出典:http://www.creativityfuse.com/



出典:http://www.goldsworthy.cc.gla.ac.uk/
出典:http://www.goldsworthy.cc.gla.ac.uk/
1984年に制作されたRain Shadow」と言う作品です。題名だけですべてが伝わってくるすてきな作品ですね。

出典:http://beautifuldecay.com/


出典:http://www.wholeearthprovision.com

円状に縦に並べられた石は周囲の石によってその形態が保たれています。また周囲の石も円状の石とまるで織物の縦糸と横糸のような関係にあり、どちらかが欠けても成立しません。そんな作品の「構造的な美」を随所に見ることができるのもアンディ・ゴールズワージーの魅力になっています。







以下のサイトではアンディ・ゴールズワージーの1976年〜1986年の作品群を見ることができます。